はじめに
この記事では、「介護保険に基づく指定申請(訪問介護・通所・居宅支援など)は、行政書士の業務か?」について、法的な根拠をもとに詳しく解説します。
結論から言えば、これは社労士の独占業務であり、行政書士が業として行うことは法的に制限されます。
行政書士と社労士、それぞれの業務範囲
◆ 行政書士法による業務
行政書士法では、第1条の2において以下の通り定義されています:
「行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する申請書等その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする」
しかし、同条第2項には、
「…その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」
という規定があります。つまり、行政書士であっても、他の法律に独占業務として位置付けられている分野では業務が制限されるという意味です。
◆ 社会保険労務士法による業務
一方、社労士法第2条には次の記述があります:
「社労士は、別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令に基づいて申請書等を作成することを業とする」 。
注目すべきは、別表第一には「介護保険法」が明記されており、社労士の業務範囲に確実に含まれているという点です。
2. 介護保険法に基づく指定申請とは何か
介護保険制度では、都道府県知事等から指定を受けた事業者だけが介護報酬を受け取れる仕組みとなっています。(「指定」=行政の許可・許認可に該当)
たとえば、訪問介護事業を始めるときには、介護保険法第70条第1項に基づき、介護保険法施行規則第114条で定められた書類を都道府県知事に提出して指定を受けなければなりません。
◆ 介護保険法施行規則 第114条 抜粋
「第114条 法第70条第1項の規定に基づき訪問介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書又は書類を…都道府県知事に提出しなければならない」
具体的には、事業所の所在地、利用者人数、管理者経歴、運営規程など、10項目以上の詳細な資料が必要で、社会保険労務士による書類作成を含めた業務支援が一般的です
3. 介護指定申請は社労士の独占業務である根拠
◆ 法律の明文による根拠
- 社労士法第2条により「介護保険法に基づく…申請書を作成すること」は社労士の業務であると明記されている
- 同法別表第一に「介護保険法」が掲げられていることも明確な根拠です。
◆ 行政書士法による制限
行政書士法第1条の2第2項によって、他の法律(社労士法)が独占業務と定めれば、行政書士の業務とはならないと規定されています。
◆ 各種実務上の一致と現状
ネットでも調べてみましたが、多数の社労士事務所が「指定申請は社労士の独占業務であり、行政書士が行うのは違法である」と明記しています。また、行政書士側でも最近は申請から撤退した例があるなど、実務の現場でも明確な棲み分けが進んでいます。
しかし、行政書士の私にも介護指定の申請はできますか?と問合せがきたことがあり、開業してこれから指定申請をしようとする事業者様にはまだ浸透していないのかもしれません。
そこで、介護指定の申請を受任していただける社労士の先生はいないかと、私の事務所付近(沖縄県本島南部)の社労士事務所何件かにご挨拶と、受任できそうか確認のため伺ってみましたが、どの社労士事務所も対応していない。やっていないというのが現状でした。
もし沖縄県内の社労士事務所様で対応している方をご存知の方がいらっしゃいましたら是非教えていただきたいです。宜しくお願いいたします。
4. 行政書士はどこまで関われるのか?
行政書士として介護関連で関われる分野は以下のように整理できます:
- 法人設立や定款作成:株式会社や合同会社などの設立手続き。
- 建物や土地に関する許認可申請:たとえば介護施設向けの開発許可や土地利用など。
- 調整・事前協議の支援:役所との折衝・調整といった事務対応の支援。
しかし、介護保険法に基づく指定申請書類の作成・提出そのものを業として報酬を得て代理することはできません。
実際には、行政書士と社労士が連携して支援するケースも増えており、たとえば定款作成や許認可の窓口対応は行政書士が行い、指定申請や人員配置要件の整理は社労士が担当するという体制でやられているところもあるそうです。
また、指定申請やデイサービス、居宅介護などのワードが出てくるため勘違いされやすく、私も最初は混同してしまっていましたが、障がい福祉事業は、「障害者総合支援法」と「児童福祉法」に基づく指定申請(居宅介護、生活介護、就労継続支援など)は、行政書士の業務となります。
5. まとめ
観点 | 行政書士 | 社労士 |
---|---|---|
介護保険法に基づく指定申請書類の作成・提出 | × 法律上の制限あり | ◯ 独占業務として許可 |
法令の根拠 | 行政書士法 第1条の2第2項(制限規定) | 社労士法 第2条&別表第一(介護保険法明記) |
実務の流れ | 連携体制で補完していく形が一般的 | 主体的に対応し、社労士として実施 |
リスク | 非対応:違法とみなされる可能性 | 適正対応:法令通り業務を提供可能 |
6. さいごに
今回のテーマ「介護指定申請は行政書士業務なのか?」については、法令により社労士の独占業務と明記されており、行政書士が報酬を得て行うことはできないという結論になります。行政書士は書類作成のプロフェッショナルですが、指定申請の領域では法的に立ち入ることができない点をご理解ください。
また、障がい福祉事業に関する指定申請は行政書士の業務となります。指定申請は、複雑で要件も多く難しい申請のひとつとなっておりますので、新規の場合は行政書士に相談されることをおすすめいたします。ぜひ下記ホームページよりお気軽にご相談ください。